大分県の風力発電を考える

風力発電を考える会おおいたのブログです。

関西電力風力発電事業への経産大臣勧告と大分県知事意見の厳しい内容【環境影響評価準備書】

関西電力による「(仮称)大分・臼杵ウィンドファーム事業」(大分市佐賀関地区〜臼杵市で計画)についての環境影響評価準備書への経済産業大臣勧告が2020(令和2)年5月22日付で出ました。

www.meti.go.jp

かなり厳しい内容になっています。

勧告にそって、事業者の関西電力は環境影響評価書(環境アセスメント)の作成をしなければなりません。勧告に沿わない内容の評価書が経産省に提出された場合、経産省は事業者に再作成を命じるという、強い効果を持っているのが大臣勧告です。

勧告後も関電は大分市佐賀関地区で説明会などを行っていますが、経産大臣勧告や、そのもとになっている大分県知事意見(2020.1.24)や環境大臣意見については言及せず、「問題ない」「大丈夫」といった、まともな説明抜きの各種の危険性の全面否定を繰り返しています。

経産大臣あての大分県知事の意見  

https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2069965.pdf

 

大臣勧告は、いくつかの追加の環境保全措置・対策を求めています。

 

騒音対策については 

関電の環境影響評価準備書では、「風力発電施設から発生する騒音に関する指針について」(平成 29 年5月環境省)に基づく指針値を超過している地点がある、と指摘しています。

環境省_風力発電施設から発生する騒音について

具体的には「静穏な環境を有している地域」では、残留騒音が「学校や病院等の施設があり特に静穏を要する場合」に35㏈、それ以外で40㏈を下回るとする指針値を設けています。関電が示す残留騒音のシミュレーションではいずれもこれを超過している、と経産大臣勧告はしています。(経産大臣勧告は、環境大臣意見を踏まえています)

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関西電力自治体に提出している計画変更(風車の巨大化)後の騒音の再予測

www.env.go.jp

 

その他に大臣勧告が求めた追加対策には

(1)バードストライク対策 再調査や専門家の意見を踏まえて行う

(2)建設工事での切土量及び盛土量を可能な限り少量化すること

とがあります、

いずれも重大な環境破壊の懸念に環境影響評価準備書がじゅうぶんに応えていないことを指摘しています。

さらに、隣接する(仮称)大分ウィンドファーム事業(事業者:コスモエコパワー[コスモ石油系])と一体となったときの累積的な影響を考慮する必要を指摘しています。

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私たちも、大臣勧告を読むまで風車の騒音についての環境省指針を理解できていなく

て、大臣勧告を読んで初めて理解したわけですが、それでも環境省指針そのものは十分なものとは思えません。*1

しかし、関電の環境アセスメントではその不十分な指針値すら超過するという指摘を経産省環境省はしたわけです。しかも、関電は国からこのような指摘を受けたことやその対策を住民に説明することなく、住民の同意を取り付けようとしています。

 

経産大臣勧告は大分県知事意見を添付すると関電に通知しています。

大分県知事意見は、大臣勧告よりもずっと踏み込んだ内容のものでした。

令和2年1月24日知事意見  https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2069965.pdf

 

知事意見の総論は

第1に

住民等から、音・超低周波音、景観等の環境面や、土砂災害の誘発等の災害面で、事業への不安視や反対の意見が寄せられているだけでなく、事業者からの説明が十分に行われていないとの意見も寄せられているとし、関電に誠実な対応を求めています。

第2に

重大な環境影響を回避・低減できない場合は、風車の配置の再検討や事業規模の縮小をもするべきだとしています。

また各論の(9)その他では

準備書での評価の結果について、全般的に曖昧で抽象的・画一的な表現が多い、と指摘し、評価書では、検討の経緯や先行事例等の知見を踏まえた考察を含む具体性のある内容となるよう、表現を見直すべきだとしています。

各論では

(1)騒音・超低周波

・残留騒音の値が環境騒音(等価騒音レベル)の値(環境省指針値)を超えている

・工事の際の輸送車両の騒音に言及がない

・風車の最大騒音を評価書には記載ずべき

(2)水環境

・2017年台風18号のときの佐賀関地区での降水量が60mm/hを超えていたことが踏まえられていない

・工事中や施設稼働などの尾根の環境変化により小規模河川や水たまりでの生物環境の変化への必要な対策を

(3)風車の影

・人によって感じ方が違うのだから、住民へのヒアリングや詳細な調査を行い、その結果を住民に十分に説明して評価書に記載を

・環境への影響の大きい、気象条件や季節や時間帯には一部の風車の稼働を停止することも検討を

・環境への影響が回避・低減できない場合、風車の配置や事業規模の縮小も検討を

(4)地形・地質

・風車の基礎が盛土部分となっている箇所がある

・地形の改変についての情報は可能な限り評価書に記載する

(5)動物・植物・生態系

・動物への影響は小さいとしているが、科学的知見にてらすと不適切

・尾根部の森林などの伐採を最小限に抑え、影響を低減する対策を

・重要な植物種の確認状況について、実際の確認位置が正確に示されていない

・改変区域から十分な距離を確保したうえで周辺植生を残すなど、具体的な環境保全措置を検討・記載すること

・重要な植物種の生育地の改変を行う場合は、必要に応じて移植などの代償措置を講ずじ、事後調査を実施すること

・造成により生じた裸地部の緑化を行う場合は、在来種で行い、外来種を用いないこと

・有害鳥獣のイノシシやシカが広範囲で確認されているため、改変面積及び改変率を最小化し、改変区域周辺の植生の保存に努めること

(6)景観

・事業実施区域は、樅の木山から連なった稜線に位置し、景観特性を構成する主要な稜線軸となっており、周辺の集落や幹線道路及び市街地からの眺望景観への配慮が求められるのに、主要な眺望点だけでしか評価がなされていない

・隣接の(仮称)大分ウィンドファーム事業は九六位山の稜線付近で進められており、一団となった眺望や色調の統一などに配慮が必要

・調査地点を追加しフォトモンタージュを作成し、住民への十分な説明に努め、検討した全ての景観調査地点の情報等を、評価書に記載すること

・環境への影響が回避・低減できない場合、風車の配置や事業規模の縮小も検討を

 (7)人と自然との触れ合い活動の場
・樅の木山セラピーロードでの、大きなイベント等の開催時には、工事中の交通への影響等の低減だけでなく、当該期間中の工事の自粛等を検討すること。施設の稼働後においては、風車の稼働を制限する等の環境保全措置を検討すること

(8)廃棄物等
・工事に伴う廃棄物や残土の発生の抑制・再利用等に努め、残土の場内処理にあたっては、仮置き時を含め、水質汚濁や災害発生等の影響が生じないような措置を講ずること

 

*1:

環境省指針の問題点

まず何よりも指針値は依然、音圧(≒音量)を用いており、音圧によっては測定できない低周波振動の被害・アノイアンスをやはり視野の外においています、

次に、「指針」による規制には、法令に基づく環境基準と違って、法的拘束力がなく行政指導の方針のようなものにとどまる、ということです。(もちろん、環境影響評価手続きなどにおいて、行政機関の指針は事実上の拘束力を生じます)